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50代、ポスト子育て世代の住みかえ(2006-12-27:(株)風 取締役社長 大久保恭子 )

 2007年10月から国の後押しで有限責任中間法人「移住・住みかえ支援機構」が本格的な活動を開始した。この機構の主な事業は50歳以上のポスト子育て世代が所有する住宅を借り上げて、空き家の場合も家賃を保証するというものだ。家賃は相場よりは低い水準とするが、転貸は3年の定期借家とするので、事情が変われば契約期間終了後には自宅に戻れるメリットがある。
 最低保証家賃は住宅の老朽化の状況や相場を勘案して適宜見直すことになっている。借り上げにあたっては、一般的な建物調査に加えて、1981年以前のもの等については耐震診断を義務付け、必要に応じて補強を行ってもらう。家賃保証については、万一のリスク発生に備えて、国が高齢者住宅財団を受け皿として債務保証金5億円を準備している。

 この機構発足の背景には、いくつかの要因があるが、ひとつには住宅ストックの活用があげられる。良質な住宅であれば、40年、50年と欧米諸国並に活用していこうというもの。もうひとつは、住宅のミスマッチの解消があげられる。子育て期を終え、夫婦二人に戻るという世代にとって、現住居は広すぎる、一方、若い子育てファミリー向けの賃貸住宅は不足気味。そこで、50代以降のポスト子育て世代に、都心の便利なマンションや、田舎暮らしが楽しめる一戸建てに住み替えてもらい、空いた住宅を借り上げて、子育てファミリーへ提供しようというものである。

 このような制度をこの時期に国が立ち上げるのは、2007年からの団塊世代の大量定年があるわけだが、果たして、50代以降のポスト子育て世代の、住み替え意向はどのようになっているのだろうか。

 首都圏在住者を対象とした「団塊ジュニアと団塊世代の理想の住まい像調査」(平成18年3月 不動産流通経営協会)によれば、現在の住まいを売却した上での住み替え意向は18.8%。売却せずに新たにもう1軒を買い増し4.1%、賃借したい0.8%、予定計画はないが新たに住宅を新築・購入・賃借したい15%を加えると、なんと38.7%もの人が何らかの形で新たな住まいを取得したいという意向を持っていることが分かる。

 ただ、これはあくまでも意向であり、実際に住み替えを実現するには、いくつかの課題を解決しなければゴールにはなかなか行き着かないというのが、多くの住み替え体験者と接してきた私の感想である。

 住み替えに関わる主な課題は3つある。

 1つ目の課題は、住み替え先に関する夫婦の意見の相違である。これが解決されない限り、住み替え計画はいつまでたってもスタート地点には立てない。

 農山村の自然を思考するロマン派の夫と、都心の便利なところで友人と趣味や観劇、食事を楽しみたい現実派の妻、相対する意見をひとつに収斂できるかどうかが最初の関門である。住み替え実践者の多くは、田園生活と都会生活が両立するトカイナカを選ぶことで、双方の折り合いをつけている。

 トカイナカとは東京から1.5時間程度の距離にある自然が豊で、その気になれば夕方、東京の都心で開かれるコンサートを楽しんだ後、おしゃれなレストランで食事をしても、その日のうちに帰宅できるところである。具体的には千葉県の外房、内房、神奈川県の真鶴、湯河原、栃木県の矢板あたりである。当初多くの夫(たいがい妻より夫のほうが住み替えには積極的)は精力的に八ヶ岳、軽井沢、伊豆といったブランド・リゾート地に憧れて、住み替え先を探し始めるが、土地・物件価格の高さ、交通費などの移動コスト、オンシーズンの渋滞、冬の寒さなどの現実に直面し、トカイナカ立地へと移行していく。結果として都会志向の妻も渋々ながら、首を縦に振ることになる。移住先としてトカイナカの選択をすることで、住み替え計画が実行に移されるケースは多いのである。

 2点目の課題は、今住んでいる家をどうするかである。

 高齢になってからの住み替えには不安がつきまとう。新しい土地での生活に馴染めるか。ご近所との関係はうまくいくか。都会と違って、田舎に移住する場合、医療施設や日常生活の利便性、文化度の面から生活満足度が低くなるのではないか、と諸々の不安が先に立つ。途中でいやになったらいつでも戻れるように自宅は手放したくない。反面住み替え資金、住み替え後の生活資金のためには人に貸したり、売却したりする必要がある。さて、どうするか。結局、答えがみつからずに、住み替え計画が頓挫してしまうというケースは多いのだ。そこで解決の方法として考えられたのが、先に述べた借り上げ保証制度というわけである。2007年10月から移住・住みかえ機構の事業はスタートしているが、すぐに多くの人から反応があり、出だしは順調のようである。また、民間企業も借り上げ制度を導入し、団塊世代の住み替え促進を図りつつある。

 3番目の課題は、住み替え後の暮らしかたである。

 定年退職するまでのサラリーマンは職場と自宅を往復する振り子運動を規則正しく繰り返すことで、暮らしのリズムを保ってきた。定年後の暮らしのリズムを何で保つかが大きな課題として残る。トカイナカへの住み替え体験者は家庭菜園での野菜づくりと犬の散歩を日課とし、それが暮らしのリズムの基調となる。そこに、大工仕事、絵画や写真のサークル活動、ゴルフなどの趣味が加わり、年に1〜2回、趣味の仲間たちと旅行を楽しむことで暮らしのリズムに変化をつける。というのが典型的な暮らしかたのようだ。なかには、週に3日ほど、これまで勤務した会社から請われて、後進の育成のために嘱託として勤務することで、振り子運動を継続するという人も散見される。

 暮らしのリズムの基調を、仕事以外の何で形成するか、またリズムの変化は何でつけるかを自らプランニングすることは、40年近く受動的に振り子運動を続けてきた者にとっては最も難易度の高い課題だと思われる。

 高校卒業後は大学へ、大学を卒業後は就職といった定型化された進路のない、定年後のライフプランニングは容易なことではない。住み替え実践者の多くは住み替え先の選定、土地取得、住宅建築のプロセスを概ね3年がかりで踏みながら、自分探し、夫婦の関係の再構築を図っているように思われる。
 50代以降の住み替えは、定年後のライフプランを設計する機会の創出という意味において、有効な手段のひとつだといえるのではないか。

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